Yoshiko Ikuma - クラシックはおいしい -Blog

記録から記憶へ

現在はさまざまなメディアが発達し、いつでもどこでも音楽を聴くことができる状況です。録音や映像も数多くリリースされ、まさに百花繚乱。そのなかで、演奏は最優先事項ですが、アーティストの心意気、音楽に対する姿勢、新たなアイディアなど、クォリティの高さと創意工夫に満ちた録音&録画にスポットを当てていきます。新譜だけでなく、シリーズ物や再発売の音源も登場します。ジャンルは問いません。広い視野を持って選出し、コアなクラシックからクラシカル・クロスオーバーまで網羅したいと思います。毎日聴きたい、ずっとそばに置いておきたい、悩みやストレスにさらされたときに聴きたい、友人や家族とともに聴きたいなど、ぜひ、お気に入りの1枚を見つけてください。

第19回別府アルゲリッチ音楽祭ライブ映像
商品番号
AMP1802
メディア
DVD
組枚数
1枚

第19回別府アルゲリッチ音楽祭ライブ映像

マルタ・アルゲリッチ、小澤征爾、水戸室内管弦楽団

 2017年の「別府アルゲリッチ音楽祭」は、アルゲリッチと小澤征爾が共演し、世界的に大きな話題を集めた。
 プログラムは、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第1番。アルゲリッチの明快なタッチとみずみずしく躍動感あふれるピアノに、小澤の指揮がピタリと寄り添う。世界で活躍する精鋭が集まった水戸室内管弦楽団は、アルゲリッチと密度濃い音の対話を紡いでいく。
 鳴り止まない拍手に応えてアルゲリッチがアンコールに選んだのは、D.スカルラッティのソナタK.141=L.422。ほとばしるような情熱と疾走するようなピアニズムに、かたわらで耳を傾ける小澤も幸せそうな表情を見せる。
 後半は、モーツァルトのディヴェルティメントK.136より第1楽章が演奏された。
 この両者の共演は、2018年の音楽祭でも実現する予定だったが、マエストロ小澤の体調が十分ではなく、残念ながら見送られることになった。
 この貴重な映像は、後世に語り継がれるものになるに違いない。

月の光~リサイタル・ピース第1集
商品番号
COCQ85364(コロムビア)
メディア
CD
組枚数
1枚

月の光~リサイタル・ピース第1集

反田恭平(ピアノ)

 反田恭平の新譜は「先出しCD」と名付けられている。これは7月8日から9月1日にかけて全国13都市で行われる縦断ツアーに先駆けてリリースされたもので、ツアーのふたつのプログラムのなかからそれぞれ数曲がセレクトされ、演奏を聴く前の予習の意味合いをもたせている。
 オープニングはシューベルトの「4つの即興曲 作品90」。美しい旋律に彩れた情感豊かで歌心あふれる4曲を、じっくりと慈しむように奏でている。
 第1番は全編にみなぎる悲哀と諦念の表情を前面に表し、第2番はのどかな自然を連想させるようにおだやかな響きを醸し出す。第3番は「歌曲王」と称されるシューベルトの歌曲を連想させる気品あふれる作品。反田はその美質に迫ろうと、内省的かつ思索的な響きを前面に押し出す。第4番は内声の扱いに特徴があり、えもいわれぬ哀感をたたえていく。
 ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」はハーフペダルを用い、こまやかな表現を重視している。ドビュッシーの「喜びの島」「月の光」もニュアンスを大切にリズムや色彩を考慮し、陰影に富む響きを示す。
 シューマン/リストの「献呈」は旋律の美しさを際立たせ、主題を口ずさむように主題をうたわせていく。最後のショパンの「別れの曲」は、各声部をリアルに浮かび上がらせながら、おだやかに語りかけるような奏法でフィナーレを飾る。
 反田恭平が大好きな曲、ファンからの要望が多かった曲を収録し、彼の「いま」を映し出している。

アンドレア・ボチェッリ/シネマ~永遠の愛の物語
商品番号
UCCS9042 ユニバーサル
メディア
CD+DVD
組枚数
2

アンドレア・ボチェッリ/シネマ~永遠の愛の物語

アンドレア・ボチェッリ

 ある曲を耳にすると、瞬時にそれを聴いたときのことが蘇り、なつかしい思いに駆られるということがしばしばある。
 カルロス・ガルデルの「首(ひとつ)の差で ポル・ウナ・カベサ」もそんな曲のひとつ。これは2000年春に来日したアルゼンチン出身のオペラ歌手、マルセロ・アルバレスが当時リリースしたタンゴ・アルバムのなかからうたったもので、オペラ歌手がうたうこの曲に新鮮な驚きと感動を覚えたものだ。
 イタリアから世界へと飛翔したアンドレア・ボチェッリが、最新アルバム「シネマ」のなかでこの曲をうたっているのを聴き、なんともいえない郷愁のような感覚が胸に迫ってくるのを感じた。
 ボチェッリは映画の世界が大好きだそうで、このアルバムは夢の実現だったようだ。今回は、プロデューサーにデイヴィッド・フォスター、さらにトニー・レニス、フンベルト・ガティカが加わり、ドリーム・チームによって制作された。
「ウェスト・サイド・ストーリー」より「マリア」からスタート、「ドクトル・ジバゴ」より「ララのテーマ」、「ニューオーリンズの美女」より「ビー・マイ・ラヴ」、「トップ・ハット」より「チーク・トゥ・チーク」などを経て「グラディエーター」より「ついに自由に」で幕を閉じる趣向だ。
 日本盤ボーナストラックとして「エビータ」より「ドント・クライ・フォー・ミー・アルゼンチーナ」が収録され、サラ・オレインがボチェッリとのデュエット行っている。
 これはDVD付きで、ボチェッリの自宅で録音している様子、ドリーム・チームのメンバーとの会話などが映し出されている。
 なお、ボチェッリは4月28日に東京国際フォーラムAで、6年ぶりのコンサートが予定されている。 

ブラームス、左手と右手で
商品番号
Alpha231 マーキュリー(輸入盤)
メディア
CD
組枚数
1

ブラームス、左手と右手で

アンナ・ヴィニツカヤ

 ロシアはピアニストの層が厚い。旧ソ連時代はすばらしい教育者が多く、彼らが各々の生徒の個性を引き出す指導法に徹し、技術面、表現力、音楽性ともに優れたピアニストを次々に世に送り出してきた。
 ペレストロイカ以後は、有能な教授陣が西側に流出し、しばらく低迷の時代が続いたといわれたが、いま再び、ロシア出身の若手ピアニストが注目を浴びている。
 ピアニストの両親のもとに生まれ、2002年からドイツに居を移し、2007年のエリーザベト王妃記念国際コンクールで優勝の栄冠に輝いたアンナ・ヴィニツカヤもそのひとり。彼女は2009年に26歳の若さで、母校のハンブルク音楽大学の教授に迎えられ、大きな注目を浴びた。
 そのヴィニツカヤがハンブルクゆかりの作曲家、ブラームスのアルバムをリリース。J.S.バッハの「シャコンヌ」を左手だけで演奏できるようにした編曲版、「8つのピアノ小品」、「2つのラプソディ」、「幻想曲(7つのピアノ小品)」というこだわりの選曲である。
 いずれもヴィニツカヤのブラームスへの敬愛の念と、鍛えられたテクニック、才気煥発のピアニズムが横溢するもので、ブラームスの新たな魅力に気付かされる。
 特に深々とした打鍵、内声を豊かに鳴らす奏法が印象的だ。

 

ベートーヴェン:交響曲第4番&第5番「運命」
商品番号
SICC30250 ソニー
メディア
CD
組枚数
1

ベートーヴェン:交響曲第4番&第5番「運命」

ニコラウス・アーノンクール指揮ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス

 長年クラシック界を牽引してきたオーストリアの指揮者、チェリスト、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者のニコラウス・アーノンクールが、引退表明をしたのは2015年12月5日、86歳の誕生日の前日のことだった。
 同年5月ウィーンのムジークフェラインザール(楽友協会)で収録された「ベートーヴェン:交響曲第4番&第5番《運命》」はラスト・レコーディングにあたり、1953年にアリス夫人と創設して以来、画期的で常に進化を遂げてきた古楽器オーケストラ、ウィーン・コンツェントゥス・ムジクスとコンビを組んでいる。
 しかし、この引退表明のわずか3カ月後の3月5日、アーノンクールは家族に見守られながら天へと旅立ってしまった。
 まさにこの録音は、アーノンクールの最後の録音となり、渾身の力を振り絞って演奏している様子が音から浮かび上がり、胸を打たれる。
 楽譜を細部まで徹底的に読み込み、研究を重ねたこのベートーヴェンは、聴き慣れた作品に新たな光を当てる演奏で、さまざまな箇所で新発見を促す。
 ベートーヴェンの交響曲全曲録音を同オーケストラとの演奏で聴きたかったが、かなわぬ夢となってしまった。残されたこの録音をじっくりと聴きたい。
 なお、CDのライナーにはアーノンクールの長文が掲載されている。

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