Yoshiko Ikuma - クラシックはおいしい -Blog

記録から記憶へ

現在はさまざまなメディアが発達し、いつでもどこでも音楽を聴くことができる状況です。録音や映像も数多くリリースされ、まさに百花繚乱。そのなかで、演奏は最優先事項ですが、アーティストの心意気、音楽に対する姿勢、新たなアイディアなど、クォリティの高さと創意工夫に満ちた録音&録画にスポットを当てていきます。新譜だけでなく、シリーズ物や再発売の音源も登場します。ジャンルは問いません。広い視野を持って選出し、コアなクラシックからクラシカル・クロスオーバーまで網羅したいと思います。毎日聴きたい、ずっとそばに置いておきたい、悩みやストレスにさらされたときに聴きたい、友人や家族とともに聴きたいなど、ぜひ、お気に入りの1枚を見つけてください。

アンドレア・ボチェッリ/シネマ~永遠の愛の物語
商品番号
UCCS9042 ユニバーサル
メディア
CD+DVD
組枚数
2

アンドレア・ボチェッリ/シネマ~永遠の愛の物語

アンドレア・ボチェッリ

 ある曲を耳にすると、瞬時にそれを聴いたときのことが蘇り、なつかしい思いに駆られるということがしばしばある。
 カルロス・ガルデルの「首(ひとつ)の差で ポル・ウナ・カベサ」もそんな曲のひとつ。これは2000年春に来日したアルゼンチン出身のオペラ歌手、マルセロ・アルバレスが当時リリースしたタンゴ・アルバムのなかからうたったもので、オペラ歌手がうたうこの曲に新鮮な驚きと感動を覚えたものだ。
 イタリアから世界へと飛翔したアンドレア・ボチェッリが、最新アルバム「シネマ」のなかでこの曲をうたっているのを聴き、なんともいえない郷愁のような感覚が胸に迫ってくるのを感じた。
 ボチェッリは映画の世界が大好きだそうで、このアルバムは夢の実現だったようだ。今回は、プロデューサーにデイヴィッド・フォスター、さらにトニー・レニス、フンベルト・ガティカが加わり、ドリーム・チームによって制作された。
「ウェスト・サイド・ストーリー」より「マリア」からスタート、「ドクトル・ジバゴ」より「ララのテーマ」、「ニューオーリンズの美女」より「ビー・マイ・ラヴ」、「トップ・ハット」より「チーク・トゥ・チーク」などを経て「グラディエーター」より「ついに自由に」で幕を閉じる趣向だ。
 日本盤ボーナストラックとして「エビータ」より「ドント・クライ・フォー・ミー・アルゼンチーナ」が収録され、サラ・オレインがボチェッリとのデュエット行っている。
 これはDVD付きで、ボチェッリの自宅で録音している様子、ドリーム・チームのメンバーとの会話などが映し出されている。
 なお、ボチェッリは4月28日に東京国際フォーラムAで、6年ぶりのコンサートが予定されている。 

ブラームス、左手と右手で
商品番号
Alpha231 マーキュリー(輸入盤)
メディア
CD
組枚数
1

ブラームス、左手と右手で

アンナ・ヴィニツカヤ

 ロシアはピアニストの層が厚い。旧ソ連時代はすばらしい教育者が多く、彼らが各々の生徒の個性を引き出す指導法に徹し、技術面、表現力、音楽性ともに優れたピアニストを次々に世に送り出してきた。
 ペレストロイカ以後は、有能な教授陣が西側に流出し、しばらく低迷の時代が続いたといわれたが、いま再び、ロシア出身の若手ピアニストが注目を浴びている。
 ピアニストの両親のもとに生まれ、2002年からドイツに居を移し、2007年のエリーザベト王妃記念国際コンクールで優勝の栄冠に輝いたアンナ・ヴィニツカヤもそのひとり。彼女は2009年に26歳の若さで、母校のハンブルク音楽大学の教授に迎えられ、大きな注目を浴びた。
 そのヴィニツカヤがハンブルクゆかりの作曲家、ブラームスのアルバムをリリース。J.S.バッハの「シャコンヌ」を左手だけで演奏できるようにした編曲版、「8つのピアノ小品」、「2つのラプソディ」、「幻想曲(7つのピアノ小品)」というこだわりの選曲である。
 いずれもヴィニツカヤのブラームスへの敬愛の念と、鍛えられたテクニック、才気煥発のピアニズムが横溢するもので、ブラームスの新たな魅力に気付かされる。
 特に深々とした打鍵、内声を豊かに鳴らす奏法が印象的だ。

 

ベートーヴェン:交響曲第4番&第5番「運命」
商品番号
SICC30250 ソニー
メディア
CD
組枚数
1

ベートーヴェン:交響曲第4番&第5番「運命」

ニコラウス・アーノンクール指揮ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス

 長年クラシック界を牽引してきたオーストリアの指揮者、チェリスト、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者のニコラウス・アーノンクールが、引退表明をしたのは2015年12月5日、86歳の誕生日の前日のことだった。
 同年5月ウィーンのムジークフェラインザール(楽友協会)で収録された「ベートーヴェン:交響曲第4番&第5番《運命》」はラスト・レコーディングにあたり、1953年にアリス夫人と創設して以来、画期的で常に進化を遂げてきた古楽器オーケストラ、ウィーン・コンツェントゥス・ムジクスとコンビを組んでいる。
 しかし、この引退表明のわずか3カ月後の3月5日、アーノンクールは家族に見守られながら天へと旅立ってしまった。
 まさにこの録音は、アーノンクールの最後の録音となり、渾身の力を振り絞って演奏している様子が音から浮かび上がり、胸を打たれる。
 楽譜を細部まで徹底的に読み込み、研究を重ねたこのベートーヴェンは、聴き慣れた作品に新たな光を当てる演奏で、さまざまな箇所で新発見を促す。
 ベートーヴェンの交響曲全曲録音を同オーケストラとの演奏で聴きたかったが、かなわぬ夢となってしまった。残されたこの録音をじっくりと聴きたい。
 なお、CDのライナーにはアーノンクールの長文が掲載されている。

ジョヴィンチェロ~バロック協奏曲集
商品番号
WPCS13320 ワーナー
メディア
CD
組枚数
1

ジョヴィンチェロ~バロック協奏曲集

エドガー・モロー

 近年、チェロ界に若き逸材が次々に登場しているが、1994年パリ生まれのエドガー・モローは、17歳でチャイコフスキー・コンクール第2位に輝いた新世代のチェリストである。    
 デビュー作の「ショヴィンチェロ~バロック協奏曲集」は、ガット弦とバロック弓を用いるスペシャリストの集まり、イル・ポモ・ドーロとの共演で、モローも1711年製テックラーをガット弦に張り替え、ジョヴィンチェロ(イタリア語で元気な若者を意味し、チェロ黎明期の曲目の意も)のタイトルが示すように、生気あふれる輝かしい響きを聴かせている。
 ハイドン、ヴィヴァルディ、ボッケリーニに加え、ジョヴァンニ・プラッティ、カルロ・グラツィアーニなどの珍しい作品も収録し、こだわりの選曲でチェロ好きの心をとらえる。
 もう1枚、「PLAY~チェロ小品集」も同時リリース。息の合ったパートナーである、ピアノのピエール=イヴ・オディクとともにチェロの小品からプーランクの歌曲、サン=サーンスのオペラ・アリアまで全17曲をのびやかな音色で披露している。
 このサン=サーンスの「サムソンとデリラ」より「あなたの声に心は開く」が実にいい味わいを醸し出している。
 若いのに、この官能的な響き、やるもんだねえ(笑)。奏者の息遣いまで聴こえ、ライヴを聴いているよう。
 

チャイコフスキー&メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲
商品番号
AVCL25878 エイベックス
メディア
CD
組枚数
1

チャイコフスキー&メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲

三浦文彰

 2009年10月、16歳でハノーファー国際コンクールにおいて史上最年少優勝に輝き、世界の舞台へと一気に飛翔した三浦文彰。現在はウィーンで研鑽を積みながら、内外で幅広い活動を展開している。
 新譜はチャイコフスキーとメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲。共演はハンヌ・リントゥ指揮ベルリン・ドイツ交響楽団。2015年6月にベルリンで収録した待望の録音の登場である。
 三浦文彰の演奏はデビュー当初から聴き続け、未来に羽ばたいていく輝かしいヴァイオリンにエールを送ってきたが、最近は音楽がより深みを増し、説得力に富むものに変ってきた。
 何よりも変化が見られるのは彼の顔付き。以前はインタビューのときなど、おだやかな笑みを見せていたが、最近は目力が強くなり、凛としまった表情をしている。
 もちろん、ステージでもその引き締まった表情は印象的で、音楽も作品の内奥にひたすら迫っていくものだ。
 ここに聴くチャイコフスキーは、流麗でドラマティックで壮大。メンデルスゾーンは華麗で幸福感に満ち、あふれんばかりのロマンが横溢している。
 三浦文彰は、この2曲のコンチェルトをこれまでもっとも多く演奏し、自家薬籠中の作品だといえるが、ここではリントゥ指揮ベルリン・ドイツ響と新たな作品を生み出すような新鮮な音の対話を繰り広げている。
 日本が世界に誇る逸材として大きな期待が寄せられる三浦文彰。今年は話題のテレビドラマ「真田丸」の主題歌の演奏も担当し、人気沸騰中だ。

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