Yoshiko Ikuma - クラシックはおいしい -Blog

音楽を語ろうよ

グァルネリとは同じ言語が話せるようになりました。ルノー・カピュソン (ヴァイオリン)

I am now able to speak the same language with "Guarneri". ― Renaud Capuçon (Violin)

2016.01.27.

ルノー・カピュソン(ヴァイオリン) photo01

官能的で幻想的な「特別な音」

 なんと官能的で幻想的で情感豊かな音色だろうか。ルノー・カピュソンのヴァイオリンを聴くとき、いつもこの響きに魅了される。彼は「特別な音」をもっている。流麗で透明感のある明快な美音は、即座にカピュソンの音とわかる強い個性に彩られ、その演奏は聴き手を第1音から異次元の世界へといざなう。
 彼は7歳のときに「自分はヴァイオリニストになる!」と自覚し、以来「美しい音を奏でる」ことをモットーとしてきた。インタビューで会うと、いつも夢見るようなフワフワした表情をしているが、演奏もまた現世から離脱し、ひたすら天上の音楽を奏でるような不思議な美の世界を繰り広げる。
 カピュソンは5歳のころに両親にヴァイオリンのCDを買ってもらい、それがオーギュスタン・デュメイの演奏だったことから、ぜひ彼のナマを聴きたいと切望した。そして数日後、両親に連れられてデュメイのリサイタルを聴きにいくチャンスに恵まれる。
「ナマのヴァイオリンの音を聴き、その美しさにショックを受けました。あんなふうにヴァイオリンを弾きたい、と夢見るようになったのです。オーギュスタンの音に恋をしてしまったというわけです」
 その後、願いが叶ってデュメイからアドヴァイスを受けるようになる。楽器も、若いころデュメイが使用していた1721年製ストラディヴァリウスを弾くことが可能になった。

ヴァイオリンは向こうから語りかける

 2005年12月にはスイス・イタリア銀行から1737年製グァルネリ・デル・ジェス「パネット」を寄贈されることになる。アイザック・スターンが50年間使用していた楽器で、彼の録音のほとんどがこの楽器から生まれている。
「ヴァイオリンというのは魔訶不思議なもので、向こうから語りかけてくるものなんですよ。楽器は2台用意されていて、ひとつはユーディ・メニューインが使っていた楽器。でもそれを弾いたとき、楽器は私に語りかけてはくれなかった。恋愛と同じようなもので相性なんでしょうね。スターンの楽器は語りかけてくれ、すぐに呼応できた。このグァルネリは男性的で野性的で奥深い音色が持ち味です」
 カピュソンはスターンから薫陶を受けたこともあり、不思議なつながりを感じさせる。その名器を得て、音楽は一気に大きく花開いていく。レパートリーが広がり、室内楽の仲間が増え、偉大な指揮者やオーケストラとの共演も目白押し。夢見るような美しく官能的な音色に拍車がかかり、マルタ・アルゲリッチが絶賛するように、個性的で情熱的なヴァイオリニストとして円熟味を増していく。

ルノー・カピュソン(ヴァイオリン) photo02

アバドとジュリーニから学んだこと

「これまでの音楽人生のなかで、影響を受けた偉大な演奏家は何人もいますが、特に指揮者のクラウディオ・アバドとカルロ・マリア・ジュリーニからは多くのことを得ています。私は1997年から3年間、アバドの招聘によりグスタフ・マーラー・ユーゲント・オーケストラのコンサートマスターを務めましたが、マエストロからはフレーズの果てしない広がりを伝授されました。長い息遣いをどのようにもっていくかを教えてくれたのです。ジュリーニには16歳のときに出会い、“ヴァイオリニストではなく、音楽家であれ”という姿勢を暗黙のうちに叩き込まれました」
 カピュソンはベルリンで勉強していたころ、ベルクのヴァイオリン協奏曲の楽譜を携えてアバドの自宅を訪ねた。アバドはスコアの隅々まで深く読み込むことの大切さを若いカピュソンに教え、さらにベルクの歌劇「ヴォツェック」の公演に招待してくれた。
「オペラを振るアバドからさまざまなことを学びました。ベルクのコンチェルトに対し、大きなインスピレーションをもらうことができ、長い息遣いも理解できました。ベルクを弾くとき、全体を見ることが大切だとわかったのです。ひとつのラインを豊かにうたわせる、その術をアバドはオペラで示してくれました」

ルノー・カピュソン(ヴァイオリン) photo03

ツィゴイネルワイゼン、ラロ:スペイン交響曲&ブルッフ:協奏曲
ルノー・カピュソン(ヴァイオリン)
パーヴォ・ヤルヴィ指揮パリ管弦楽団
WPCS-13327(ワーナー・ミュージック) 

ラロはスペイン色濃厚なところに惹かれる

 カピュソンは同時代に生きる作曲家の作品にも積極的に取り組み、とりわけアンリ・デュティユーとは親しく交流した。
「現代の作曲家と仕事をすると、バッハやベートーヴェンの作品に戻ったとき、新たな発見をいくつもすることができるのです」
 彼は2015年1月14日、パリ管弦楽団の本拠地となる新たなホール、フィルハーモニー・ド・パリのオープニング・コンサートに招かれ、デュティユーの作品を演奏している。同年6月7日にはNHK交響楽団の定期公演に出演し、ラロの「スペイン交響曲」を演奏した。
「スペイン色濃厚なところに惹かれる」とカピュソンが語るその演奏からは、まさにスペインの歌が聴こえ、乾いた空気がただよい、聴き手を異国の地へといざなった。
 来日後の夏にはフィルハーモニー・ド・パリでパーヴォ・ヤルヴィ指揮パリ管とラロの「スペイン交響曲」、サラサーテの「ツィゴイネルワイゼン」、ブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番の録音を行い、2016年に40歳を迎えるカピュソンの記念碑的なアルバムが完成することになった。


"息子が生まれてから私の人生観は大きく変わりました。それにより演奏にも変化が出て、地に足が着いた感じがします。いまは自由な空気が吸える、そんな思いです。グァルネリとも同じ言語が話せるようになりました。世界中を飛び回る生活ですが、充実しています!"

"After my son was born, my view of life has changed a great deal. It has also affected my performance and I now feel more down to earth I feel that now, I can breeze the air of freedom. I am also able to speak the same language with "Guarneri". Though my lifestyle is always on the road around the world, I am enjoying a full life! "

次回はピエール=ロラン・エマール (ピアノ)