Yoshiko Ikuma - クラシックはおいしい -Blog

音楽を語ろうよ

この半年間で、オーケストラとぼくの間には不思議な幸福感が生まれている。佐渡裕 (指揮)

A marvelous feeling of happiness is being born between the orchestra and myself.,
during the last six months. ― Yutaka Sado (Conductor)

2016.03.18.

佐渡裕 (指揮) photo01

第1回の演奏会終了後、音楽監督の提示が

 これまで各地のさまざまなオーケストラを指揮してきた佐渡裕が、2015年9月、オーストリアを代表するオーケストラのひとつ、ウィーンの名門といわれる108年の伝統と歴史を誇るトーンキュンストラー管弦楽団の音楽監督に就任した。その2年前に初めて同オーケストラに招かれて3回の公演を指揮したが、第1回のコンサート終了直後に音楽監督のオファーがあった。
「正直いって驚きました。トーンキュンストラー管弦楽団は、楽員がみんなとても感じがよく、温かい雰囲気がみなぎっている。ひとりひとりの演奏能力も高く、事務局の対応もとてもいい。でも、ウィーン・フィルやベルリン・フィルのようなスーパーオーケストラではないわけです。それを彼らも十分に理解しています。でも、オーストリアの州立オーケストラですから、経済基盤はとてもしっかりしている。こういうオーケストラから音楽監督のポストを提示されたことで、ぼくは2年間じっくり考えました。日本のテレビ《題名のない音楽会》の司会は7年半続けてきましたし、日本と海外の演奏会のこともあり、考えることは山ほどありましたから」

佐渡裕 (指揮) photo02

グラフェネックでの録音風景

ムジークフェラインの昼の演奏会

 トーンキュンストラー管弦楽団は、ひとつのプログラムをウィーンの楽友協会大ホール(ムジークフェライン)で2回、ザンクト・ペルテンとグラフェネックで1回ずつ、計4回演奏することになっている。
「音楽監督を引き受けるかどうか思案していたとき、ホールがなかなか満席にならないこの時代に、4回も同じプログラムで演奏会を開けるということはとても幸運だなと思いました。なかなかそういうオーケストラはありません。ムジークフェラインのコンサートは、ウィーンの人々がとても大切に思っている日曜日の昼の時間帯に組まれています。これが音楽監督を引き受ける大きな要因になったことは事実ですね。さらに楽員のもっと上を目指したい、もっといい演奏をしたいという熱意も強く感じました。でも、返事をするのに即答はできず、結局2年間かかりました」
 就任披露演奏会は昨秋行われたが、そこから現在まで約半年間で、「ぼくとオーケストラの化学反応は非常によくなってきた」と語る。
「最初は、楽員がぼくに対し、リーダーとしての役割を強く求めていると感じました。そこでリハーサルでは音程、バランス、フレーズの作り方、タイミングなどかなり細かく要求し、話もじっくりして、オーケストラの潜在能力を引き出すよう尽力しました。そしてコンサートを行うごとに絆が深まっていき、今回の録音にこぎつけたわけです」
 同オーケストラとは3年契約を結んでいる。


"3年間、このオーケストラとはオーストリアの作品を中心にプログラムを組んでいきたいと思っています。ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、ブラームス、そしてマーラー、ブルックナー、R.シュトラウス。これが基本路線で、初録音にはぜひR.シュトラウスの2作品をもってきたかったのです"

"I would like to build up programmes of Austrian repertoire as the main, with this orchestra for the next three years “Haydn, Mozart, Beethoven, Brahms and Mahler, Bruckner, R. Strauss. This is the basic line-up. For our first recording, I really wanted to take up the 2 works by R. Strauss."

佐渡裕 (指揮) photo03

『リヒャルト・シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」、「ばらの騎士」組曲』
佐渡裕(指揮)/トーンキュンストラー管弦楽団
TON-1001 オープン価格(直輸入盤)
販売元: ナクソス・ジャパン株式会社
3月23日発売、日本語解説書付
録音:2015年10月16~20日 グラフェネック・オーディトリアム

R.シュトラウスに魅せられて

 佐渡裕と「英雄の生涯」との出会いは、ヘルベルト・フォン・カラヤンの録音だった。中学生だった彼は、1974年録音のベルリン・フィルとの演奏(EMI)に夢中になり、レコードが擦り切れるまで聴いた。
「そのころは音楽オタクでしたから、いろんな録音を聴いていましたが、カラヤンのすごさ、ベルリン・フィルのうまさに驚愕しました。弦がうねり、管が神々しく、圧倒的な名演でした。ぼくが師事したレナード・バーンスタインは、R.シュトラウスが嫌いで、演奏しませんでした。いま、こんな話題でカラヤンの演奏を褒めたら、天国で怒っているだろうなあ(笑)。R.シュトラウスは、ドイツ的な流れを確実に踏襲しながらも、映像的な音楽作りを得意としています。オーケストレーションの名手で、楽器の組み合わせ方がすばらしい。きっと、映画音楽を書いたら、名曲が生まれたんじゃないかな」
 録音では、最後のクラリネットとピッコロの音が徐々に弱くなっていく箇所がどうしても納得いく演奏にならず、10テイクも録り直した。
「ぼく自身が求めている音になるまで、忍耐強く繰り返しました。オーケストラもその忍耐に応え、“ひとつの光”になるような音楽が生まれたとき、全員が苦しさから解放され、美しい音楽が誕生したわけです」
 一方、「ばらの騎士」にも長年魅了され、各地で演奏している。日本のシエナ・ウインド・オーケストラと演奏したときは、弦楽器ではないため、異なるアプローチを試みなければならず、非常に苦労した。
「でも、こういう経験が音符の隅々まで検証することにつながり、作品のとらえ方を深めることになります。今回の録音では、ワルツが特に難しく、時間がかかりました。みんなにいわれましたよ。日本人の指揮者にウィーンの音楽を改めて教えられたってね(笑)」

オーストリアと日本の架け橋

 こうしてさまざまな苦難を乗り越えてレコーディングを終了した両者は、いよいよ日本ツアーを敢行することになった。5月21日(土)ミューザ川崎シンフォニーホール、22日(日)NHKホール、23日(月)サントリーホールが予定されている。プログラムは「英雄の生涯」ほか、ハイドンやブラームスの交響曲が組まれ、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲にはレイ・チェン、ピアノ協奏曲第1番にはアリス=紗良・オットがソリストとして参加する。
「今回のツアーは、オーストリアと日本の架け橋のような役目を担っています。ソリストもアジアの血をもち、実力と人気を兼ね備え、国際舞台で活躍するふたりに声をかけました。オーケストラも日本公演を非常に楽しみにしています。全員で、大きな喜びに満ちあふれたコンサートにしたいと意気込んでいます!」

次回はマキシミリアン・ホルヌング(チェロ)