ハイドンのチェロ協奏曲は作品を明確に把握し、様式を理解し、いかにしたら新たな光を当てることができるかを考えて録音に臨みました。マキシミリアン・ホルヌング (チェロ)
I challenged in recording the Haydn Cello Concerto by getting the whole picture of the work and understanding the style, and by thinking how I would be able to shed new light on the work. ― Maximilian Hornung
2016.06.11.
©Marco Borggreve
21世紀のチェロ界を牽引する
ドイツのチェロ界を担う逸材としてのみならず、21世紀のチェロ界を牽引する役目を果たし、世界中から熱い視線が送られているのが、1986年アウグスブルク生まれのマキシミリアン・ホルヌングである。
8歳よりチェロを始め、19歳のときに難関として知られるドイツ音楽コンクールで優勝の栄冠に輝いた。その後、バイエルン放送交響楽団の第1首席チェリストを務めたが、2013年春、ソロ活動に専念するため退団。現在は世界各地でソロ、室内楽、オーケストラとの共演など幅広い活動を展開している。
2010年にソニー・クラシカルと専属契約を結び、デビューCD「Jump! チェロのための小品集」はエコー賞新人賞を受賞。さらにバンベルク交響楽団との共演によるサン=サーンスの「チェロと管弦楽のための組曲」「ロマンス」、ドヴォルザークのチェロ協奏曲の録音はエコー賞を受賞した。
2分弾いてひと目惚れしたテクラー
ホルヌングは2014年4月に来日し、「無伴奏チェロ」のリサイタルと「東京・春・音楽祭」で河村尚子とのデュオを披露した。
このときに初めてインタビューをしたのだが、若く才能に恵まれ、はつらつとしたキャラクターの彼は、会う人みんなを元気にするエネルギーに満ちていた。演奏もみずみずしい音色と推進力に富む前向きな音楽性が特徴だが、インタビューでもどんな質問に対してもことばを尽くして一生懸命に話し、ジョークも忘れず、非常に明快だった。
「いま使っている楽器は、2分弾いてひと目惚れしちゃったんですよ」
使用楽器はデイヴィッド・テクラーの1700年前半に製作されたチェロ。出合ってから11年目だが、まだ完璧には掌握できないという。
「当時、自分に合う楽器を求めて何年間も何台も試したんです。ようやくテクラ―に巡り合った。でも、簡単にはいい音が出せない気難しい楽器で、自分の奏法を全面的に見直したくらい。これからも挑戦あるのみですね」
父親はオーケストラのコンサートマスターをしている。その影響で、彼は幼いころ半年間だけヴァイオリンを習ったことがある。
「でも、チェロに魅せられ、学生時代からさまざまな場で演奏し、ネットワークを広げてきました。ソニーからデビューできたのも、人々との交流が功を奏したため。オーケストラでの経験も貴重な財産ですね」
ハイドン:チェロ協奏曲第1番&第2番、アザラシヴィリ:チェロ協奏曲
マキシミリアン・ホルヌング(チェロ)、アントネッロ・マナコルダ指揮カンマーアカデミー・ポツダム
SICC30230(ソニー・クラシカル)
ドヴォルザークを集中して勉強
2010年11月には、チェリストのバイブルとも称されるドヴォルザークのチェロ協奏曲をレコーディングしている。
「これは単なるチェロ協奏曲ではなく、《ザ・コンチェルト》とも呼ぶべき偉大な作品。ぼくは最初の先生のもとで、このコンチェルトを2年間集中して勉強しました。これまでいろんなところで演奏して内容を深めてきたこともあり、ぜひ録音したかったのです。この曲は家に30枚ほどCDがあり、長年いろんな演奏を聴いてきましたが、だれかのコピーだけはしたくないと思った。この録音がリリースされたことで、各地のオーケストラとの共演が可能になったんですよ」
その後、2015年7月に再来日し、無伴奏チェロ作品から室内楽、室内オーケストラとの共演など、幅広い作品を披露した。いずれもこれから大海原に漕ぎ出していくような勢いに満ちた演奏で、アンネ=ゾフィー・ムターが太鼓判を押すのが理解できる。
「ムターのオーディションを受けたときは、ものすごくナーバスになりました。でも、終演後に話をしたらとてもリラックスさせてくれたんです。いまはトリオなどで共演していますが、彼女は明確な方向性をもっているため安心して演奏でき、自由に自分を出せる。彼女は、ステージに出たら聴衆全員の目をくぎ付けにしますよね。そのスター性と存在感はすばらしい。学ぶところはとても大きいです」
ハイドンはオケとの音の融合が大切
2014年にはアントネッロ・マナコルダ指揮カンマーアカデミー・ポツダムと共演し、ハイドンのチェロ協奏曲第1番、第2番を録音。その間にジョージア(グルジア)のヴァージャ・アザラシヴィリの1970年の作、チェロ協奏曲を挟み込んでいる。このアザラシヴィリの作品は、ホルヌングにとって特別な位置を占める。師のエルダー・イサカッゼの愛奏曲であり、ホルヌング自身は2002年にトビリシを訪れた折に作曲家の前で演奏しているからだ。
「今回のハイドンとアザラシヴィリの録音は、指揮者もオーケストラもとても親しいため、全員で一致団結。作品を明確に把握し、様式を理解し、いかにしたら作品に新たな光を当てることができるかを考えて録音に臨みました」
ハイドンのコンチェルトはオーケストラとの音の融合が大切だと力説する。いまの年齢だから演奏できると考え、録音に挑んだ。
"もっと若いときだと理解できないものが、いまは見えてきましたから。ぼくは15歳から17歳のころは練習漬けの日々でした。24、5歳になると、自分は何をやっているのだろう、チェロで何を伝えたいと考えているのだろうと疑問が湧いてきたんです。それから試行錯誤を繰り返し、現在は大人になったため(笑)、人間としての成長が音楽に映し出されるようになったと思います。ムターをはじめ、いろんな共演者がぼくを成長させてくれたのです"
"Now, I am able to see the things that I was not able to see when I was younger.
During ages 15 to 17, my days were filled with practice after practice. And when I was around 24 to 25, I questioned to myself, what am I doing? What do I want to convey with the cello?
Then, I repeated trial and error and now that I have grown up (laughing), I think that my growth as a human being is being reflected to my performances. Ms. Mutter and other musicians have helped me to grow up."
今後も自身の成長に磨きをかけ、チェロで作品の内なる声を伝えたいと語る。J.S.バッハの無伴奏チェロ組曲も将来ぜひ録音したいが、いまはベートーヴェンのチェロ・ソナタ全曲録音を夢見ているそうだ。
趣味は山登り。「自然のなかに身を置くのが好き。山は、地に足を付けた人生を歩むことを教えてくれるから」
近々、山のような壮大で冷涼な空気に富むベートーヴェンの録音を聴くことができるかもしれない。
次回はダニール・トリフォノフ (ピアノ)